逮捕後に勾留される場合とその対応方法

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逮捕後に勾留される場合とその対応方法

逮捕後に勾留された場合、10日間、身体拘束されます。勾留されてしまうと周囲に逮捕されたことがバレたり、色々な影響が出てきます。では、どのような場合に勾留されるのでしょうか?勾留されないためのポイント、勾留されてしまった場合の対応方法、勾留される確率など徹底解説します。

逮捕後の流れ

逮捕後の流れ

警察に逮捕されると、逮捕された人(「被疑者」と呼ばれます。)は、通常、警察署に設置された留置場に留置されます。但し、逮捕により被疑者の身体を拘束できる時間は最大72時間(3日間)です。警察が被疑者を更に留置する必要があると考えた場合、逮捕してから48時間(2日間)以内に被疑者を事件記録等と一緒に検察庁に連れて行きます。これを(身柄)送検などと呼びます。

検察庁で検察官は事件記録を読むとともに、被疑者から簡単に事情を聴き(この手続を弁解録取といいます。)、被疑者を更に拘束する必要があるか検討します。この逮捕後の更なる身体の拘束を勾留といいます。

検察官は、被疑者を勾留する必要があると考えた場合、被疑者の送検から24時間以内(多くは被疑者が送検されたその日)に裁判官に勾留を請求します。

勾留の請求を受けた裁判官は、記録を読むとともに、被疑者から簡単に事情を聴き(この手続を勾留質問といいます。)、被疑者を勾留するか否かを決定します。

勾留が決定されると、勾留請求の日から10日間の身体拘束が続きます。また、この10日間の間に捜査が終わらない場合、更に10日間勾留期間が延長されることもあります(勾留延長)。勾留延長も検察官の請求により裁判官が決定します。

勾留された場合の影響

上記のように、勾留されると、身体拘束期間は逮捕期間を含めると最低でも11~12日間に及びます。

10日以上にもわたる身体拘束による不利益は、身体拘束そのものによる身体的、精神的苦痛に加え、次のような不利益が考えられます。

身体拘束を秘密にしておくことが困難となる。

勾留されると、仕事をしている人や学校に通っている人は、当然その間、仕事や学校に行くことは出来ません。また、1日や2日なら体調不良で休むという話も通用するかもしれませんが、10日間以上となると、ほとんどの職場や学校などで診断書の提出等の証明を求められると思われます。その結果、職場や学校に対し、身体を拘束されたことを秘密にし続けることは困難と思われます。

解雇、退学のおそれ

逮捕、勾留されたことが職場や学校に明らかになると、逮捕、勾留自体で有罪が確定するわけではありませんが、日本の刑事裁判は有罪率が高いため、職場や学校は逮捕、勾留=有罪と考えるかもしれません。また、逮捕勾留による欠勤や欠席を正当な欠勤、欠席理由と認めない結果、勾留されたことで職場を解雇されたり、学校を退学処分となるおそれもあります。

どのような場合に勾留されるのか、勾留するための要件とは?

勾留の要件は法律で決められています。検察官も、裁判官もその被疑者が勾留の要件を充たしているかを判断して、検察官は勾留を請求し、裁判官は勾留するかを決定します。勾留の要件は、以下のようになります。

  1. 犯罪の嫌疑が存在する場合
  2. 勾留する理由が存在する場合
    • 住居が不定であるか。
    • 被疑者を釈放することで被疑者が犯罪の証拠を隠したり、壊したりするおそれがあるか。
    • 被疑者を釈放することで、逃亡するおそれがあるか。
    • ※上記3つのうち1つ満たせば、勾留の理由は存在することになります。

  3. 勾留する必要があるか。

    捜査、裁判の必要性より、被疑者の身体を拘束することで生じる不利益が大きいか。

犯罪の嫌疑が存在する場合

犯罪の嫌疑の存在とは、被疑者がその犯罪を行ったという疑いがあるということです。勾留の時点で有罪、無罪を決めるわけではありませんので、有罪を証明できるほどの証拠がなくとも、この要件は満たされます。例えば、電車内における痴漢事件(迷惑防止条例違反)で、通報を受け警察官が駆けつけた際、その場に被害者と被疑者がいて、被害者が「お尻を触われたので、その手を捕まえると被疑者の手であった」などとの証言があれば、この被疑者に迷惑防止条例違反の嫌疑は存在すると思われます。裁判官が勾留の判断をする上で、この点が満たされないと判断されることは少ないようです。

勾留の理由が存在する場合

住居が不定であるか。

住居不定が理由となっているのは、被疑者を釈放した場合、その後、被疑者と連絡を取ることが困難となり、捜査の継続、裁判への出廷が困難となるためです。

被疑者を釈放することで被疑者が犯罪の証拠を隠したり、壊したりするおそれがあるか。

被疑者が犯罪の証拠を隠したり、壊したりするおそれ(証拠隠滅のおそれ)については、勾留するかしないかを決めるか判断する上で重要な要素で、検察官、裁判官及び弁護人で意見が激しく闘われる部分です。

この点の判断は、次のプロセスで判断されます。

  1. どんな証拠が存在するか
  2. どういう方法で証拠を隠したり、壊したりするか
  3. そのような証拠を隠したり、壊したりすることが客観的に可能か
  4. 被疑者がそのような方法で証拠を隠したり、壊したりするおそれがあるか

例えば、先程の痴漢(迷惑防止条例違反)事件で、1.隠滅されるおそれのある証拠としては、被疑者に触られたという被害者の供述が考えられ、2.証拠を隠滅する方法としては、被疑者が被害者に接触して供述を変えるよう脅したりする方法が考えられます。次に3.の判断としては、被疑者と被害者に面識があるか、被害者の自宅や連絡先を知っているか、普段の生活圏が一緒かなどにより判断されます。さらに、4.の判断としては、被疑者が実際、逮捕時に被害者を脅すような言動があったか、被疑者が暴力団組織と関係があり、組織力を通じて被害者の連絡先を突き止めることが可能であるかなどにより判断されます。

上記の事例で、普通の通勤途中の会社員で被害者と面識がない場合、通勤手段や通勤時間帯を変更すると裁判官に誓約することなどで、証拠隠滅のおそれがないと判断されることは多いに考えられます。

被疑者を釈放することで、逃亡するおそれがあるか。

被疑者の身分関係の安定、捜査への協力姿勢と被疑事実の重大性等を比較して、被疑者が刑事責任をおそれて逃亡するおそれがあるかで判断します。具体的に被疑者の身分関係の安定とは、長期勤続事実・家族の有無、経済的安定性等により判断されます。捜査への協力姿勢とは弁護人との連携、身元保証人の有無により判断されます。被疑事実の重大性とは、当該事実のみでなく、前科の有無等により不起訴となる事案か、執行猶予がつく事案か、実刑となる事案かによって判断されます。

上記の痴漢(迷惑防止条例違反)事件で、被疑者に仕事、家庭、経済面での安定性があり、それまで前科・前歴がない場合、実刑となる可能性は低く逃亡のおそれはないと判断されることが多いと思われます。

勾留の必要性がある場合

犯罪の嫌疑が存在し、勾留の理由があったとしても、捜査のために勾留する公共上の利益より、勾留により被疑者が受ける不利益が明らかに大きい場合、勾留の必要性がないとされ、勾留はされません。

勾留により被疑者が受ける不利益として考慮されるのは、勾留により被疑者が会社を解雇されたり、自営業で被疑者が勾留されると失業することとなる、勾留されると入学試験や卒業試験を受けられなくなる、被疑者に持病があり継続的治療が必要などというような生活基盤を失ったり、人生の重大な進路の選択が失われる、健康上の問題があるような事情です。

他方、捜査のために勾留する公共上の利益は、被疑者の証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれが高いほど高くなり、また、犯罪の結果が重大な場合や悪質な場合も高くなります。

したがって、勾留の必要性がないと判断されるためには、被疑者に上記のような不利益が生じるとともに、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれが小さいことや嫌疑がかかっている犯罪が重大事案や悪質な事案でないことも必要となります。

上記の痴漢(迷惑防止条例違反)事件で、例えば、被疑者が「被害者のお尻は触っていない。」、あるいは、「お尻に手を触れたが混雑のため偶々触れただけだ。」などと痴漢の事実を認めておらず、被疑者が被害者に接触し、供述を変えさせるような証拠隠滅の可能性があると判断された場合でも、被疑者にこれまで痴漢の前科・前歴がなければ、懲役刑が求刑されるとは考えにくく、勾留の必要性はないと判断されることは多いに考えられます。

勾留されないためのポイント

警察が被疑者を逮捕した場合、ほとんど被疑者を身柄送検します。そこで、勾留されないためには、勾留の要件がないことをまずは検察官にアピールし勾留請求しないよう働きかける必要があります。もっとも、検察官も身柄送検されてきた事件については原則勾留することを考えており、勾留の要件がないことをアピールしても勾留請求することが多いと思われます。しかし、最終的に勾留するかしないかを決定するのは裁判官です。そこで、検察官が勾留請求した場合、裁判官に対し勾留の要件がないことをアピールする必要があります。

検察官や裁判官にアピールすることは、これまで述べてきた証拠隠滅のおそれがないこと、逃亡のおそれがないこと(職務経歴、家族や収入の状況、身元引受人がいること)、勾留により生じる不利益(解雇や失業のおそれ、学校の在学証明や持病、継続治療の必要性の資料)を証明することです。これらの資料を身体が拘束されている被疑者が行うことは不可能です。そこで、弁護人をとおして事情や資料を収集整理してもらい、意見書として検察官や裁判官に提出した上、面接してもらうのが勾留されないためには効果的です。

そのためには、逮捕当初から弁護人を選任し、接見を通じ事情聴取、資料入手を行う必要があります。

平成30年6月から、国の費用での弁護人を選任する被疑者国選弁護人制度が勾留された案件全てに拡大されました。しかし、被疑者国選弁護人が選任されるのは勾留された後です。したがって、逮捕当初から弁護人に活動してもらうには、当番弁護士を積極的に活用する必要があります。

勾留された場合の対応方法

勾留されたとしても、次の方法によって勾留を争う方法があります。

  1. 勾留の裁判に対する準抗告
  2. 勾留取消の請求

また、被害者がいる犯罪の場合、被害者との示談交渉を進め示談が成立すれば、検察官に釈放を促すこともできます。

データで見る勾留確率

平成27年版犯罪白書によれば、勾留請求却下率は平成15年以降上昇しています。

法務省の犯罪白書ページはこちら

弁護士の実感としても、勾留されないケースが増えていると感じています。

勾留請求却下率が上昇してきた理由として、裁判官が勾留の要件があるかをより実質的に判断するようになってきたことが考えられます。裁判官が勾留の要件を実質的に判断するようになった要因としては、裁判員裁判の導入にもあるのではないかと思われます。裁判員裁判導入後、被告人に充分な公判準備の機会を保障するため、保釈が積極的に認められるようになりました。保釈の判断において、裁判官はやはり証拠隠滅のおそれを判断するのですが、それまで検察官の意見を鵜呑みにしてきた裁判官が実質的に証拠隠滅のおそれがあるのかを判断するようになったと考えられます。そして、同じ身体の拘束からの解放を考える勾留の判断においても、証拠隠滅のおそれなどの要件を実質的に判断するようになってきたと感じています。

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