知っておきたい民事裁判の仕組み

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民事裁判とはどういうものでしょうか?

私たちは,テレビドラマなどで裁判所の法廷の中で裁判をしているシーンを良く目にします。刑事事件では,法廷内に裁判官のほかに検察官,弁護士がいますが,民事事件では,裁判官のほかに検察官はおらず,弁護士同士が戦っている姿を目にします。

この弁護士が法廷内で何のために何をしているのか,裁判官は何をしているのかを理解するには,民事裁判の究極的な目的から理解していただく必要があります。

民事裁判の究極的な目的は強制執行をすることにあります

そもそも民事裁判は何のためにするのでしょうか?

例えば,AさんがBさんに100万円を貸しましたが,Bさんは約束の期限を過ぎても弁済をしてくれないというケースを考えます。Bさんが任意に支払ってくれない限り,Bさんから強制的に財産を奪い取るしかないのですが,強制的に他人の財産を奪い取る行為は多くの場合犯罪となってしまいます。しかし,一般私人が合法的に相手方の同意なくして強制的に財産を奪い取る手段があります。それが民事執行です。

民事執行手続には,いろいろありますが,この中でも強制執行について説明します。

強制執行手続では,主に,不動産執行手続と債権執行手続があります。

先ほどの例で,Bさんが不動産を所有していた場合には,Aさんは裁判所を通じてBさんの不動産を競売にかけ,売却代金の中から貸した100万円を回収するのが不動産執行手続です。これに対し,Bさんが銀行に預金を持っていた場合や働いていて給料をもらっていた場合には,Aさんは裁判所を通じて預金債権や給与債権を差押えて銀行やBさんの勤め先から貸した100万円を回収するのが債権執行手続です。

このようにしてAさんは強制執行手続を通じてBさんの財産を合法的に奪い取ることができます。

強制執行をするためには権利が確定していることが必要です

Bさんが支払をしない場合でもAさんは強制執行手続によってBさんから貸したお金を回収できることが分かりました。もっとも,何でも簡単に強制執行ができてしまうというのでは問題が生じ得ます。Bさんにも言い分があり,例えば,「お金は借りたのではなく贈与されたものだ」とか,「100万円は既に弁済している」という言い分があり,本当であるのにAさんが強制執行できてしまえば,Bさんにとっては財産権の侵害になってしまいます。

そこで,強制執行をするには,権利が確定していることが必要なのです。

ところで,「権利が確定している」というのはどういうことでしょうか?

先ほどの例で言えば,AさんがBさんに対し100万円を支払ってもらうことを請求する「権利」ということになりますが,この「権利」というのは「目に見えない」という性質があります。「目に見えない」権利が「存在する」と確定するには,公の機関が確定させるという作業が必要です。

裁判所が宣言する判決が確定することや公証役場で公証人が公正証書を作成することで権利が確定することになります。このうち前者の裁判所が判決で権利があるのかないのか宣言するための手続が民事訴訟手続になります。

民事訴訟では,法律を使って,事実から権利への転換をします

民事訴訟では,裁判所が,判決によって,権利があるのかないのかを宣言するのですが,どうやって「目に見えない」権利があるのかないのかを判断するのでしょうか?

実は,「法律」というのは分かりやすく言えば,「事実」から「権利」への転換装置であるということができます。こういう「事実」に該当すれば,こういう「権利」が発生しますよという転換ルールが「法律」で定められているのです。「事実」は目に見えるものなので,「事実認定」と「法律の適用」によって,「目に見えない」権利があるかないかを判断できるのです。

つまり,裁判所の法廷では,原告側の弁護士が法律に書かれている「事実」が存在すると主張して「権利」があると訴えを起こし,被告側の弁護士はその「事実」は存在しないなどと主張してその「権利」はないと訴えます。そして,裁判官は両者の言い分を聞いて,法律に書かれている「事実」があるかないかを判断し,法律を適用して「権利」があるかないかを判断して判決を書くのです。

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