自分が株をもつ会社の配当に不満がある株主,会社に債権があるが,会社の業績が悪化したため充分債権を回収できない債権者など,会社の経営状況に不満があり,いずれは現経営陣の責任を追及する場合,会社の経営状況を把握する必要があります。本稿では会社の経営状況を知る手段として会計帳簿閲覧請求について解説していきます。
目次
会計帳簿閲覧請求とは?
会計帳簿閲覧請求とは,会社に対し,会社の会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧を求める権利です。具体的に閲覧できる会計帳簿や資料とは,仕訳帳,元帳,補助簿やこれらの帳簿作成のため直接資料となった伝票,受取証等です。これらの会計帳簿や資料をみれば,会社の取引先や取引内容及び取引量などが分かり,会社の経営状況を把握する上で重要な資料となりえます。
会計帳簿を閲覧請求する際の注意点
会計帳簿の閲覧請求できる人
閲覧請求権をもつのは,一定の持株(議決権又は発行済株式総数の100分の3以上の株式)を有する株主です。会社の債権者には閲覧請求権は認められていません。これは,株主は会社の所有者であり,会社の経営状況について監督する立場であるのに対し,債権者 は一次的には債権を回収できるか否かが関心事であり,会社の秘密事項も含まれる経営状況までは知る必要はないという判断があるためと考えられます(他に債権者が会社の経営状況を知る手段については後述します)。
必要な記載事項
会計帳簿を閲覧するためには,閲覧目的と閲覧する会計帳簿・資料の範囲を会社が認識できる程度に具体的に示す必要があります。例えば,閲覧目的として「会社財産が適正妥当に運用されているかの確認」では具体性に欠けるとされます。「○○取締役が違法な経理処理を行っている」などと記載すれば,○○取締役の就任期間中で,○○取締役が関与する業務の会計帳簿が閲覧範囲と特定できるので,閲覧を求める理由として,具体性を満たすとされます。
この際,○○取締役が不正な経理処理を行っていることを示す資料は必要ありません。閲覧請求者は閲覧によって○○取締役が不正な経理処理を行っている証拠を収集しようとしているからです。
謄写ができるか
会計帳簿は膨大な数字の羅列であり,これを見て記憶することは困難です。そのため,閲覧請求者としては会計帳簿を謄写(写しを取る)したいところです。会計帳簿閲覧請求には謄写も含まれていますので自分で写しを取ることは可能です。しかし,会社に対し謄本(原本の写しであると会社が証明したもの)の交付を求める権利は含まれてはいません。したがって,自分で会計帳簿の写しを取る必要があります。会社のコピー機を使わせてくれるかは会社次第ですが,コピー費用は請求者の負担です。また,閲覧には補助者の利用も認められるので,写真業者を補助者として謄写を行うことも可能です。
閲覧が拒否される場合
- 請求を行う株主の権利の確保または行使に関する調査目的以外で請求したとき
ここでいう株主の権利とは株主の資格において有する権利とされます。株主としての資格を離れた純個人的な権利は含まれていません。例えば,株主であっても会社との売買の債権者として調査する目的や,株主でもある会社従業員が給料債権者として調査する目的では閲覧拒否理由に該当します。
- 請求者が会社の業務遂行を妨げ,株主の共同の利益を害する目的で請求したとき
会社に対する嫌がらせのため,不必要に多数の会計帳簿・資料の閲覧を求めたり,会社に不利な情報を流し,株価を低下させるためなどの閲覧は拒否理由に該当します。また,請求者の加害の意図までは必要とされておらず,客観的にみて会社の業務遂行,株主の共同利益を害する事実があれば,拒否理由に該当します。
- 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営むかこれに従事する場合
請求者である株主が会社と競業関係にある場合も閲覧拒否理由に該当します。会計帳簿には,会社の企業秘密等も含まれていますので,競業者に企業秘密等が知られると,会社の利益が大きく害されるからです。また,請求者に会計帳簿閲覧で得た資料を競業に利用する意思がなくても,客観的に請求者と会社の間に実質的競争関係があれば拒絶理由に該当します。
- 請求者が閲覧によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求した場合
請求者が閲覧で知り得た企業秘密等の情報を競業者等に売り込むため請求したと認め られる場合,拒絶理由に該当します。エに該当する場合,ア,イにも該当することとなるでしょう。
- 請求者が過去2年以内に会計帳簿・資料の閲覧で知った事実を利益を得て第三者に通報したことがあるとき
過去2年以内にエの前歴があるものは,前歴の存在自体が閲覧拒否理由に該当します。
閲覧できない場合の対処法
株主が閲覧を拒否された場合
会社の閲覧拒否に納得できない株主は,裁判所に対し会社に会計帳簿の閲覧を求める訴訟を提起することができます。また,裁判による判決を待てず,緊急に閲覧を認める必要性がある場合,会社帳簿閲覧の仮処分を申請します。さらに,会社による会計帳簿・資料の破棄,隠匿又は改ざんのおそれがある場合,裁判所に証拠保全手続を求め,裁判所が会計帳簿・資料を謄写し,裁判所が証拠書類として保管していく方法が考えられます。
債権者が会社帳簿を見たい場合
債権者には会計帳簿閲覧権は認められていませんが,債権者であっても計算書類等(貸借対照表,損益計算書,株主資本等変動計算書等)は閲覧することができ,会社の経営状況を知る1つの資料となりえます。
また,債権者が会社に対し訴訟を提起した上で,会計帳簿が事案を解決する上で必要な証拠であることを裁判所に申し立て,裁判所に会社に対し会計帳簿の提出を命じさる方法もあります。
まとめ
会計帳簿閲覧は会社経営陣に対し法的責任を追及する上で重要な手段となります。また,会社経営陣には顧問弁護士がついてることが多いと思われます。会社経営陣の責任追及を考えている方はその後の交渉及び訴訟を見据え,早期に一度弁護士に相談されることをお勧めします。