正当な理由なく会社の取締役を解任された場合(=不当解任された場合),会社法に基づいて,会社に対して損害賠償請求ができます(会社法339条2項)。どのような条件をみたせば,どれくらいの金額が請求できるのか,また,請求に必要な資料は何なのかについても触れていきます。
目次
不当解任の論点整理
取締役の任期途中による解任であること
不当解任による損害賠償請求をするには,会社の取締役を「任期途中で解任」されたことが必要です。任期満了による退任の場合や,任期満了後に取締役の再任に至らなかったような場合には,損害賠償請求はできません。
株主総会での解任決議を受けていること
取締役の解任は,手続として,株主総会での解任決議を経ることが必要です(会社法339条1項)。これは,たとえば,取締役会決議や,社長の一存では,取締役解任ができないということを意味します。
ただし,株主総会での解任決議を経ていない場合は,取締役としての地位が継続していることとなり,その分の報酬を請求することができます。損害賠償請求ではなく別途報酬請求をすることが可能ということです。つまり,時系列によって以下のような請求をすることになります。
正式な解任前
取締役を正式に辞めていないものとして扱われますので,未払の報酬があればその報酬請求ができます。
正式な解任後
解任以後の,取締役としての残存期間の報酬を損害賠償として請求できます。
損害賠償請求の対象となる報酬の種類
取締役の報酬を構成する種類ごとに解説します。
役員報酬
取締役を解任されなければ得られたであろう,任期満了までの残存期間の役員報酬を損害賠償請求できます。
賞与・退職慰労金
賞与規定・退職慰労金規定や支給慣行によって一定の基準に基づく退職慰労金が支払われていた場合には,賠償請求できる場合があります。上記の役員報酬のように,必ず請求できるというわけではありませんので,支給規定等をよく確認する必要があります。
取締役を解任できる正当な理由
以下のような場合には,取締役解任の「正当な理由」があると判断され,損害賠償請求が認められません。ただし,「正当な理由」があるか否かの判断は非常に難しいので,独断で判断せず,弁護士に相談することをお勧めします。
法令・定款違反行為がある場合
取締役に職務執行上の法令・定款違反行為があった場合には,正当理由が認められます。裁判例では,特定の業者と癒着して不当に自己又は第三者の利益を図ったことを正当理由としたものがあります(東京地裁平成8年8月1日判決)。
本人の病気
取締役の心身の故障のため職務執行に支障がある場合には,正当理由が認められます。裁判例では,代表取締役が持病の悪化により療養に専念するために,その有する株式全部を他の取締役に譲渡し,同人との代表取締役の地位を交代したところ,取締役からも解任されたという事案について,正当理由を認めたものがあります(最高裁昭和57年1月21日判決)。
職務への著しい不適任
職務への著しい不適任,すなわち,経営能力の著しい欠如についても,正当理由が認められます。
損害賠償請求に必要な書類
登記事項証明書
解任以後の報酬相当額を請求するためには,いつ取締役に就任し,いつ解任されたかを正確に把握することが重要です。そのため,登記事項証明書によって,いつ取締役に就任し,いつ取締役を解任されたかを確認します。
定款
定款に取締役の任期が規定されていることもありますので,定款の確認も必要です。
報酬がわかる書面
報酬相当額の損害賠償請求をするには,正確に報酬額を把握する必要があります。たとえば,取締役の報酬を定めた株主総会議事録(取締役会への一任決議がされているときは取締役議事録等も必要),役員報酬規定,役員報酬明細書,源泉徴収票等の準備が必要です。
委任契約書
これも,取締役の就任時期,任期がわかる書面として重要です。任期の他にも,報酬額の記載があることも多く,損害賠償請求のために重要な資料です。
損害賠償の請求手続き
会社との交渉
まずは,会社を任意の交渉をして,損害賠償請求をします。交渉においても,ただ単に金額を請求するだけではなく,上記のような書類を証拠として示し,適切な額を示すことがポイントです。
会社側の対応によっては,簡易裁判所に対して民事調停を提起することも考えられます。
訴訟を起こす
任意の交渉が奏功しない場合には,訴訟提起を考えます。証拠に基づいて損害賠償額を示し,裁判所に適切な額の賠償を認めてもらうように訴訟追行していきます。