自動車が引き起こす交通事故は、ときに悲惨な事態をもたらします。残念ながら、現在でも毎年4000人以上の方が、交通事故によって命を落としています。
交通事故によって死亡した場合、死亡した被害者の遺族の方が加害者や加害者側の損害保険会社に対して損害賠償請求をすることになります。
しかし、死亡事故は突然起きるもので、亡くなられたショックの状態で遺族の方は加害者や加害者側の損害保険会社と慰謝料の金額交渉などを行わなければなりません。
請求できる損害項目としては、大きく分けて、①慰謝料、②逸失利益(仮に死亡していなければ将来得られたであろう利益)、③葬儀費用の3つがあります。
それぞれいくらぐらい請求するのが相場なのか、突然起きた交通事故で、慰謝料請求のポイントなどを解説します。
死亡事故の慰謝料の相場
死亡事故の慰謝料の相場は次の通りです。
お亡くなりになった方 | 自賠責保険基準 | 裁判基準 |
---|---|---|
一家の支柱 | 900~1,300万円 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 900~1,300万円 | 2,400万円 |
独身者 | 900~1,300万円 | 2,000~2,200万円 |
子供 | 900~1,300万円 | 2,000~2,200万円 |
高齢者・老人 | 900~1,300万円 | 2,000~2,200万円 |
裁判基準では2,000万円以上が通例ですが、自賠責保険基準では900万円~1300万円となり、2倍程度の開きがあります。このように、死亡事故の慰謝料はどのような基準で請求するかによって大幅に異なるのが通常です。そして、保険会社が提示してくる慰謝料は裁判基準よりかなり低く、裁判基準で請求すれば大幅に増額できる可能性があります。
慰謝料の金額を決める3つの基準
- 裁判基準
裁判基準とは、文字通り、裁判において裁判所が認定する際に目安となる、損害賠償金額の算定基準のことで、後記の②任意保険会社基準や③自賠責保険基準よりも、通常、高額になります。裁判における裁判所の認定基準となるだけでなく、示談交渉段階でも、被害者側に弁護士が付けば、加害者ないし保険会社と、この裁判基準をベースにして話し合いが行われることになります。
- 任意保険基準
任意保険基準は、任意保険会社が内部的に設定している損害賠償金の支払基準のことです。具体的な基準の中身については、各保険会社は公表していませんが、保険会社ごとに設定しているものですので、算定基準が異なります。いずれも、③の自賠責保険基準の支払金額より下回ることはありませんが、この基準に多少色を付けた程度の金額です。
- 自賠責保険基準
自賠責保険基準は、交通事故の被害者に最低限の保障をするために、法令上定められている支払基準のことです。あくまでも被害者の最低限の保障を目的とするものですので、算定基準は低く設定されています。
裁判基準で慰謝料を勝ち取るには?
正当な裁判基準の慰謝料を受け取るには、自分で裁判するか、弁護士に依頼して示談交渉・裁判をするかのいずれかです。弁護士は裁判基準での解決を求めて訴訟するという選択肢がありますので、裁判基準に近い金額での示談成立または裁判で裁判基準による支払いを勝ち取ることができます。
交通事故で死亡した場合に生じる慰謝料
交通事故で死亡した場合に生じる慰謝料には、以下の3つがあります。
- 被害者本人の慰謝料
- 近親者の慰謝料
- 内縁の妻または夫の慰謝料
被害者本人の慰謝料
被害者が亡くなると、被害者本人に慰謝料が発生し、これと同時に相続人がこの慰謝料を相続すると考えられています。確かに、交通事故に遭ってから死亡するまでの間にタイムラグがある場合には、このような考えも不自然ではありませんが、被害者が即死したケースでは、精神的苦痛に対する慰謝料が発生する前にすでに死亡していますので、少し不自然な気もします。
しかし、現在の最高裁判所の考え方では、即死のケースでも、被害者本人に慰謝料が発生し、これが相続人に相続されるということで確定しています。
被害者の近親者の慰謝料
死亡した被害者の近親者は,被害者の死亡により,強い精神的苦痛を受けることになります。そのため、被害者の近親者にも、被害者本人の慰謝料とは別に、近親者固有の慰謝料の発生が認められています(民法711条)。
もっとも、死亡事故の慰謝料の相場で示した金額は、近親者固有の慰謝料を含んだ金額なので、慰謝料額が追加されるわけではありません。
内縁の妻または夫の慰謝料
死亡した被害者に内縁の妻または夫がいた場合、この人たちにも慰謝料が発生するのでしょうか。
内縁関係は、法的な意味での婚姻をしていないため、近親者と全く同列に扱うというのは難しい反面、カップルによっては、婚姻関係にある夫婦と同程度の実態がある内縁関係も存在し、これらの人に慰謝料が発生しないのは、かえってアンバランスだということもあり得るかもしれません。
実は、過去の裁判例でも、長期間の内縁関係の継続があり、夫婦と同程度の実態が認められる内縁関係にあった者に、慰謝料が認められているケースが複数あります。要は、慰謝料の発生を認めるに値するだけの夫婦の実態があるかどうかによって、内縁関係者には、慰謝料が認められたり、認められなかったりするようです。
(参考)被害者の生前の親しい友人は慰謝料を請求できるのか?
被害者が亡くなる前からの唯一無二の親友には、慰謝料が認められるでしょうか。
このような友人も、被害者の死亡により、当然、強い精神的苦痛は受けるでしょうが、おそらく友人関係にまで、法的に慰謝料の発生を認めるのは、困難ではないかと思います。
死亡事故の慰謝料と相続の関係
死亡事故の慰謝料は相続財産に含まれるのか?
ご家族が交通事故によって亡くなってしまった場合、遺族の方にとっては、加害者に対する損害賠償よりも、まずは、死亡した被害者の葬儀や身辺整理が第一次的な問題かと思います。しかし、一段落すると、気が重いながらも、被害者の方が残された財産(遺産)を処理しなければならず、その遺産の中には、交通事故によって生じた損害賠償請求権も含まれます。そのため、死亡によって生じた損害賠償請求権は、遺族(法定相続人)に相続されます。
死亡事故の慰謝料は誰が相続するのか?
通常、交通事故で人が死亡した場合、被害者の相続人が、加害者や保険会社に対して損害賠償請求をすることになります。特に、相続人の中でも近親者が請求する場合、「慰謝料」は、「被害者から相続した被害者本人の慰謝料」と「近親者固有の慰謝料」の2つがありますので、これらを合算して、相手方に請求していることになります。
特に被害者本人の慰謝料は、被害者本人の「遺産」ですが、相続人それぞれが、個別に、自分の持ち分(相続分)に従って、権利行使することも、理論的にはできないわけではありません。
しかし、死亡事故の損害賠償金は、逸失利益や葬儀費用等の他の費目と合わせて構成されていますので、慰謝料だけを抜き出して、相続人が個別に請求するということは、実務上、行われていません(少なくとも、保険会社はこのような請求に対して、支払いを拒絶することになるかと思います。)。
したがって、相続人が複数いる場合には、被害者本人の慰謝料を含む損害賠償請求権を、相続人間で、どのように分配するかや、相手方との交渉や裁判の方針を、みんなで協議して決定する必要があります。
死亡事故の慰謝料の請求相手
加害者本人への請求
当然ですが、交通事故を起こした加害者本人に、損害賠償請求をすることが可能です。
しかし、死亡事故の慰謝料の相場で見た通り、2,000万円以上の慰謝料を自分の財布からポンと支払える加害者はほとんどいないと思います。加害者がこれだけの現金・預金を持っていなくても、不動産等の形で財産を持っている場合には、これらを、最終的には、差し押さえて現金化し、回収することも可能かもしれませんが、通常は、次に述べるように、加害者が契約している保険会社に請求をすれば、より早期に回収できます。
任意保険会社への請求
被害者の相続人としては、通常、加害者が契約している任意保険の保険会社に請求するのがセオリーです。
任意保険とは、契約者自身が任意に加入する自動車保険のことをいいます。
任意保険には、示談代行サービスが付いていますので、交通事故が起きれば、加害者の任意保険会社が、加害者に代わって、具体的にいくらの損害賠償金を支払うのかを、被害者及び被害者の相続人と交渉することになります。
この際、加害者の任意保険会社からいくら損害賠償金を引き出せるのかが、被害者側の弁護士の仕事でもあり、一般の被害者が交渉する場合には、知らず知らずのうちに、低い金額で丸め込まれてしまう場面でもあります。
自賠責保険会社への請求
被害者が、早い段階で、一定の損害賠償金を取得したいと考えた場合、自賠責保険会社に請求することも選択肢の1つです(被害者が直接、自賠責保険会社に請求するため、「直接請求」とか「被害者請求」といったりします。)。
自賠責保険会社に対して慰謝料の請求ができる親族は、被害者の父母(養父母を含む。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む。)に限られます。
また、自賠責保険会社が支払う保険金は、上限が法律で決まっており、また、被害者の最低補償を目的とするものですので、さきほどの裁判基準と比べると、かなり低い金額となります。死亡した本人の慰謝料350万円のほかに、遺族の慰謝料は、請求者の人数によって、以下の金額になります。
① 請求権者が1人の場合 550万円
② 請求権者が2人の場合 650万円
③ 請求権者が3人以上の場合 750万円
なお、亡くなった被害者に扶養されていた者がいるときは、上記金額に200万円が加算されます。
以上の各慰謝料を合計すると、前記の「死亡事故の慰謝料の相場」表のとおり、自賠責保険基準では、慰謝料は計900~1,300万円になります。
政府への請求
加害者にお金がなく、また加害者が任意保険にも自賠責保険にも入っていなかった場合には、被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。
しかし、このような場合に備えて、自賠法に基づく政府補償事業により、自賠責保険会社を経由して、政府に対して、被害者の相続人が請求することができます。
慰謝料以外に請求できる費用は?
- 葬儀費用
「人はいずれ死ぬんだし、葬儀費用は事故に遭わなくても、将来遺族が負担することになったはずで、たまたま交通事故の加害者になった人に負担させるのは、おかしいのでは?」とも考えられますが、葬儀費用も、基本的には相手方に請求できます。
裁判基準では原則実際の支出額、上限150万円までが葬儀費用として支払われます。自賠責保険基準では原則60万円とし、上限100万円までが葬儀費用として支払われます。
- 逸失利益
死亡逸失利益とは、死亡した被害者が、仮に交通事故によって死亡せずに生きていれば、将来的に受け取ることが出来たはずの収入分のことです。この将来の収入分は、事故によって失うことになりますので、逸失利益として、加害者や保険会社に対して請求していくことになります。
もっとも、被害者自身は、死亡すると、その後、生活費はかかりませんので、逸失利益を算定する際には、死亡逸失利益から生活費を控除する必要があります。
一般的な、死亡逸失利益の算定式は以下のとおりです。
死亡逸失利益=基礎収入額×(1―生活費控除率)×ライプニッツ係数
逸失利益についても、保険会社は計算の基礎となる収入金額などを低く見積もってきます。
裁判基準で本来もらえる金額は人それぞれ異なりますが、高齢者や学生など、よくあるケースではほぼ確実に大幅増額が可能です。具体的な金額など、詳しくは下記ページをご覧ください。
まとめ
死亡事故の場合、遺族は通常、損害賠償請求どころではなく、まずはお葬式や、少し落ち着いてから遺産の話し合いをする必要があるなど、自分たちで損害賠償に関する法的知識を勉強している暇などないはずです。このような肉体的にも心理的にも、加害者や加害者の任意保険会社と交渉している余裕などありませんので、交通事故に強い弁護士に依頼した方が安心です。
また、要する弁護士費用を加味しても、最終的な損害賠償金額が、自分たちで交渉するよりも増額するのであれば、弁護士に依頼するのが最も賢い方法かと思います。
そして、弁護士に依頼する方向で考えたのであれば、1度、弁護士に相談をし(相談料がかかるかもしれません。)、その場で報酬額の目安をしっかりと確認することに加え、依頼するものが亡くなった方の大切な遺産(慰謝料等)でもありますので、対応した弁護士が、誠実で真摯に事件に向き合ってくれる人物であるかを、しっかり見極めるのが良いと思います。