死亡事故では、慰謝料の他に、逸失利益(被害者が仮に生きていれば受け取ることが出来たはずの収入分)を請求することができます。
この死亡逸失利益の計算上のポイントを解説します。
目次
死亡逸失利益とは?
死亡逸失利益とは、死亡した被害者が、仮に交通事故によって死亡せずに生きていれば、将来的に受け取ることが出来たはずの収入分のことです。
この収入分は、事故によって得られなくなりますので、逸失利益として、加害者等に対して請求していくことができます。
もっとも、被害者自身は死亡していますので、その後、生活費はかかりませんので、逸失利益を計算するに際しては、死亡逸失利益から生活費を控除する必要があります。
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益の計算式は以下のとおりです。
死亡逸失利益=基礎収入額×(1―生活費控除率)×ライプニッツ係数
基礎収入額
基礎収入は、原則として、死亡時の被害者の年収を当てはめることになります。
収入のない学生が死亡した場合
ただし、学生(18歳未満の未就労者)が事故で亡くなった場合、給料がないからと行って、基礎収入をゼロとして計算するのは、はたして適当といえるでしょうか。学生であれば、近い将来、社会人になり収入を得る蓋然性があったにもかかわらず、たまたま事故時に無収入だったために、逸失利益の計算において、基礎収入をゼロとするのは、やはり実態に合いません。もっとも、被害者が、将来、どのような職業に就き、どのような働き方で、生涯でどの程度の収入を得られるかは、事故時には判然としません。
そこで、学生の場合には、全労働者の平均賃金等を、基礎収入に据えることになります。
将来の昇給が見込まれる20代の労働者が死亡した場合
また、年功序列制の賃金体系を定めていることの多い日本企業においては、20代の賃金は低く抑えられがちです。そうすると、20代で死亡し、そのときの年収をベースに逸失利益を計算すると、逸失利益として低くなります
そこで、30歳未満の若年労働者の場合には、学生と同様に、全労働者の平均賃金を基礎収入にすることになります。
高齢者で年金がある場合
年金で生活していた場合、年金も基礎収入に算入してよいかどうかは年金の種類によって異なってきます。
- 遺族厚生年金
最高裁判決によれば、遺族厚生年金は、家族の生活保障のためのものではなく、あくまでも死亡した被害者本人のための年金であり、一身専属性が強いため、基礎収入としては認められません。
- 老齢年金・障害年金等
他方で、最高裁は、その他の公的年金である老齢年金や障害年金等は、遺族の生活保障的意味もあるため、この点を加味して、基礎収入として認めています。
生活費控除率
被害者が死亡すると、当然ですが、死亡後の生活費は必要なくなりますので、生きていれば要したであろう生活費も控除した上で、逸失利益を計算する必要があります。
このように、被害者の死亡により、将来の収入から支払われるはずであった被害者の生活費の支払いを免れるため、将来の生活費相当分を控除する一定の割合のことを生活費控除率といいます。
生活費控除率は、被害者本人がどのような立場にあったかによって多少異なります。具体的な目安としては、以下のとおりです。
亡くなられた方の立場 | 生活費控除率 |
---|---|
一家の支柱(被扶養者1人の場合) | 40% |
一家の支柱(被扶養者2人以上の場合) | 30% |
女性(主婦、独身、幼児等を含む) | 30% |
男性(独身、幼児等を含む) | 50% |
ライプニッツ係数
逸失利益は、将来の収入の損失ですが、他の損害項目と合わせて、示談交渉や裁判を経て、一括で受け取ることになります。
将来、その都度発生した毎月の収入(給与・報酬等)を、現時点にいて損害賠償請求により一時金として受け取るわけですから、その間に発生するはずの中間利息を控除する必要があります。
例えば、将来的に67歳までに合計1億円を得られた場合でも、現時点で1億円を受け取ってしまうとおかしなことになります。今受け取った1億円を、金融機関等に預ければ多少の利息が付きますし、民法上の利息も5%(民法改正後は3%前後で変動)と定められています。そうすると、現時点で受け取った1億円は、中間利息の関係で、将来的にはもっと大きな金額となってしまいます。逆に、将来(原則67歳時)に1億円を受けれるよう、現時点の価値に引き直すことが必要であり、そのための調整係数がライプニッツ係数と呼ばれるものです。
ライプニッツ係数は、基本的には、死亡時から67歳までの労働能力喪失期間によって決まっています。また、民法改正により、法定利息が変動制に変わったため、今後はライプニッツ係数も変動することになります。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、基本的には、死亡時から67歳までの期間です。
もっとも、未就労者の場合には、死亡時の年齢からスタートではなく、18歳から計算し、また大学進学等によりそれ以後の就労を前提とする場合は、大学等卒業時から計算します。
他方で、死亡時にすでに67歳を過ぎていた場合、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします。
死亡逸失利益の計算例
死亡逸失利益の計算については、人それぞれ異なりますが、ここではモデルケースとしていくつか紹介したいと思います。
年齢 | 性別 | 職業 | 年収 | 生活費控除率 | ライプニッツ係数 | 逸失利益 |
---|---|---|---|---|---|---|
45歳 | 男性 | 会社員 | 600万円 | 40% | 13.1630 | 4,739万円 |
50歳 | 女性 | 専業主婦 | 372万円 | 30% | 11.2741 | 2,941万円 |
16歳 | 男性 | 高校生 | 548万円 | 50% | 16.4796 | 4,513万円 |
ケースは、あくまでも弁護士が代理人となって、裁判基準に基づいて損害賠償請求をする場合を想定していますので、一般の方が、直接、加害者や損害保険会社と交渉をしても、通常は、もっと低い金額になります。
裁判基準で損害賠償請求する場合については下記ページをご確認ください。