建物明け渡し請求の流れ、訴訟(裁判)から強制執行まで

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建物明け渡し請求の流れ、訴訟(裁判)から強制執行まで

建物明け渡し請求の流れは下記の通りです。

  1. 滞納家賃の請求
  2. 契約解除の通知を行なう
  3. 家賃滞納者と交渉し,自発的な退去を求める
  4. 交渉で立ち退かない場合には,訴訟(裁判)を起こす
  5. 判決後も明け渡さない場合には,強制執行

以下でそれぞれについて解説します。

滞納家賃の請求

まずは,催促状などの書面や口頭で,家賃が滞納しており債務不履行の事態が発生していること,滞納額を伝え期限を区切って速やかに支払うよう求めることが重要です。速やかに家賃の滞納が解消される(及びその後の滞納が改善されることが約束される)のであれば,引き続き賃貸借契約の継続を検討しても良いでしょう。

契約解除の通知を行なう

滞納家賃を請求しても賃借人から支払がないような場合には,賃貸借契約を解除することを検討します。賃貸借契約を解除するためには,解除の意思表示を賃借人に伝える必要があります。

通常は,滞納家賃の金額(月数)とその支払を求めるとともに,滞納家賃が契約の解除事由(契約書などから確認)に該当することを指摘します。そして,一定の期間を区切って滞納家賃の支払を求め,その期間内に解消されない場合には,契約を解除する旨を通知します。

解除の意思表示は,後に法的手続(訴訟)になった場合に備え,配達証明付き内容証明郵便で送ると良いでしょう。これによって,賃借人に配達がされたこと(解除の意思表示が届いたこと)の証明が可能です。

家賃滞納者と交渉し,自発的な退去を求める

契約解除の通知を行った後は,賃借人の交渉態度に応じて対応を検討します。訴訟を起こす場合には,費用と時間のコストがかかりますので,なるべくこれを起こさず賃借人に自発的に退去してもらうことが望ましいところでしょう。

内容証明に定めた期限内において,賃借人から滞納賃料の解消など誠実な提案がなされた場合には,賃貸借契約を継続する方向で話を進めることを検討して良いでしょう。その際,賃借人からは家賃支払の猶予や分割弁済の要望がされる場合もありますが,基本的には厳しい態度で臨む必要があります。賃貸借契約の継続となる場合,下記のとおり賃料滞納の解消(支払)と,滞納の再発防止策について協議し,書面(示談書,和解書など)を残すことが重要となります。

一方で,賃借人から退去希望の連絡があるなど,賃貸借契約の解消の方向で話が進む場合には,そのまま自発的な退去に向けて話を詰めていくこととなります。その際は,立退の時期と方法(鍵など返却物の交付など)に加え,これまでの滞納賃料の解消方法(滞納賃料の総額と弁済の方法,違約金など)の話を詰め,やはり合意書などの書面を残しておくことが重要となります。

賃借人との交渉が難航する場合には,訴訟になった場合の見通しを踏まえて(背信性があり賃貸借契約の解除が認められる可能性が高い等の事実を伝えるなどして)強い態度で交渉を継続していくことになります。

建物明け渡し請求訴訟(裁判)を起こす

交渉の結果,賃借人が自発的に物件から立ち退かない場合には,裁判所に訴訟を起こすことになります。

訴状の作成提出を行なう

裁判所に対しては,明渡を求める物件を特定して,訴状を提出します。訴状には,請求の趣旨(求める判決の内容を端的に示したもの。物件を明け渡し,滞納賃料の支払いを求めるという内容になります。)と,請求の原因(請求の趣旨を基礎づける理由になります。)を簡潔かつ説得的に記載する必要があります。

訴状には,物件目録を付け,明渡を求める物件を特定する必要があります。賃貸している物件が居住用物件であればその記載をします。さらに,駐車場も貸している場合には,別途駐車場の賃貸借契約が成立しますから,そこからの退去を求める必要があります。事前に駐車場契約についても解除通知の上,本体の物件と併せて目録に記載し,明渡請求訴訟を起こすことになります。

仮処分が必要な場合

なお,訴訟は賃借人に対して退去を命じるために起こすものですが,まれに賃借人が強制的に明渡を受けることを妨害する目的で,物件の占有を第三者に移してしまうこともあります。このようなおそれが見込まれる場合には,訴訟に先んじて仮処分(占有移転禁止の仮処分)の手続を取っておいても良いでしょう。これにより,賃借人が占有を移すことが禁止されますので,強制執行の妨害を防ぐことができます。

ただ,この仮処分を起こすためには一定の担保金(数十万程度)が必要となりますので,金銭面での注意が必要です。

訴訟を起こした後の流れ(和解の重要性)

訴状を提出した後は,これが賃借人に送達(特殊な郵便方法で届けられます)され,おおよそ1か月程度以内に第1回目の裁判(弁論)期日が開かれます。その期日において,賃借人の言い分を踏まえながら紛争を解決していきます。

解決方法としては判決と和解の2種類の手段がありますが,通常はまず和解による解決を試みることになります。

和解とは,当事者が話し合い,互いに譲歩できる部分は譲歩して紛争を解決する手段です。和解は当事者同士が了解の上行なうものですから,賃借人が自主的に退去したり滞納賃料を支払ったりする可能性は高いでしょう。早期解決の観点も踏まえると,一部譲歩はするものの,和解によって紛争を解決する方が望ましい場合も多いといえます。

和解の際には,賃借人が退去する日付(期限),及び退去の方法(鍵の交付など)に加え,金銭面の解決(滞納賃料の額の確定と支払方法)についても合意しておくことが重要です。

また,退去後は新しい賃借人を入れることになりますが,その前に建物について必要な修繕(原状回復)を行なう必要もあります。したがって,原状回復の内容と原状回復費用の負担(敷金との相殺含め)について合意することも重要でしょう。

和解がまとまらない場合には判決を取得する必要

一方,和解がまとまらない場合には,判決による解決を目指すほかありません。判決とは,裁判所が一方的に建物の明渡(退去)を命令することによって,紛争を解決する手段となります。判決には強制的に明渡を命じる効力がありますが,賃借人の意思に反して手続を行なうので,賃借人からは強い反発を受ける可能性もあります。

判決を取得するには,訴状及びその後に提出する書面(準備書面といいます。)と提出された証拠を踏まえて,賃貸借契約の解除が有効である(併せて家賃の滞納が発生)と裁判所に判断してもらうことが重要です。したがって,訴状等の書面においては当方の主張内容を簡潔かつ説得的に記載し,十分な証拠を提出し,裁判所を早期に説得することが重要となります。

判決までの期間(早くても2~3ヶ月かかる)

訴訟を起こしてから,紛争が解決するまではある程度の時間がかかることとなります。訴訟を起こしてから第1回の裁判期日が入るまで約1ヶ月かかり,そこから期日が1月に1回程度入りますので,和解で早期に解決できる場合でも2~3ヶ月はかかることになります。判決を求める場合には,それ以上の期間がかかることもあります(6ヶ月から1年程度)。

したがって,早期解決を目指すには賃借人に交渉で自主的に退去してもらうこと,訴訟を起こす場合であっても早期に和解での解決を目指す方が望ましいといえるでしょう。

民事調停手続について

他の裁判所の手続としては,簡易裁判所に起こす民事調停という手続もあります。この手続は,訴訟のような原則として判決を求めるのではなく,裁判所職員の調停委員を交えて話合いを行い問題の解決を図る手続となります。訴訟よりも,柔軟な解決ができる場合もあります。ただ,調停手続は,賃借人が裁判所に出頭してこないと話が進みませんので,自発的な出頭が望めないような場合には訴訟を選択した方が良いでしょう。訴訟の場合には,賃借人が訴状に対して何ら反論しない場合や出頭しない場合には,事実関係を争わないものとして,一方的に退去を命じる判決(欠席判決といいます)をもらうことが可能です。

強制執行

判決を取得した後は,まずは賃借人に改めて連絡し,判決がでたので自主的に退去することを求めるとともに,期限内に退去しない場合には強制執行に移行する旨を警告し,自主的な退去を求めます。

しかし,賃借人がなおも自発的に退去しない場合には,裁判所に改めて判決に基づいて強制執行(賃借人を強制的に退去させる手続)を取る必要があります。

裁判所へ費用の納付

その際,裁判所には一定の手数料などの費用を予納する必要があります(東京地方裁判所の場合には,約6万5000円程度)。

裁判所の執行官から明け渡しの催告を行う

強制執行を申立てた後は,裁判所職印の執行官が,賃借人に対して1ヶ月の引渡期限を定めて明渡の催告を行ないます。

強制執行の断行

明渡しの催告をしても賃借人が自主的に退去をしない場合には,執行官にて強制執行の断行(荷物の拠出等を行ない,占有を強制的に解きます)を行ないます。断行を行なう際には,賃貸人において荷物の拠出業者を手配しておく必要があります。

執行官とは強制執行の方法について事前に打ち合わせを行ない,当日は執行官が物件に入り,そこから賃借人の家財等の動産を出して,賃借人や同居の親族などの関係者などに引き渡します。それができないときは,即日または断行の日から1週間未満の日に売却を行なうことが可能です(保管のコストは賃貸人が負担します)。

これらの手続を経て,賃借人の強制的な退去が完了します。訴訟から強制執行までは,早くても4ヶ月から6か月程度はかかることになり,手配する業者の費用など多くの負担がかかります。

以上から,なるべく強制執行を経ずに賃借人に自発的な明渡をしてもらった方が,経済的・時間的なコストは少なく済むこととなります。

退去後にすべきこと

法律関係の清算

退去時に,賃借人との法律関係を清算しておくことが重要です。賃借人が自発的に退去する場合には,退去の日時や方法(鍵の返却),原状回復や敷金の扱いについて決め,協合意書・和解書などの書面に残します。訴訟の場合には,訴訟上の和解手続の中で同様の協議をし,決めた内容は和解条項にしておきます。

賃借人の退去に際しては,次の賃借人を入居させるために物件の修繕やリノベーションが必要になる場合もあります。これらの修繕については,賃借人が故意・過失によって破損させた部分の修繕であれば賃借人の費用負担となりますが,物件の通常の使用に基づく損耗(通常損耗)や,物件の修繕ではなく価値を増大させるような措置(グレードアップや新たな設備の取り付け)についてはオーナーの負担となります。

修繕費等の清算

修繕等については,業者に適切に見積もりを取り,工事を実施します。修繕費用についての負担者を確認の上(重要事項説明書に記載があることが通常です),賃借人に請求できるものについては原状回復費用として通常通り請求します。この際,敷金が残っていればこれと相殺します。

弁護士に依頼するメリットと弁護士費用の相場

最後に,家賃滞納問題の処理を弁護士に依頼するメリットについて解説します。

賃借人との面倒な直接交渉を回避することができる

オーナーが弁護士に依頼することによって,賃借人との面倒な直接交渉を回避することができ,強制的な退去まで含めた全てを一任することができる点が挙げられます。弁護士は,法律事務全般に関する交渉の権限があることに加え,裁判所における訴訟代理権が認められていますので,法的に賃借人を強制退去させるところまで弁護士を通じて行なうことが可能となっています。

交渉による賃借人の早期退去を促していくことが可能

退去問題に詳しい弁護士に依頼することによって,交渉による賃借人の早期退去を促していくことが可能です。訴訟代理権のある弁護士名義での通知により法的な主張を行ない,賃借人に退去せざるを得ない地位にあることを認識してもらうとともに,強制執行を含め今後の見通しを含めた交渉により賃借人の説得を行ない,早期退去を実現していくことになります。オーナーが直接交渉する場合と比較して,早期に退去を実現できる場合も多いでしょう。

弁護士費用の相場

下記が1つの目安となると思います。

  1. 着手金
    30万円
  2. 成功報酬
    60万円

各弁護士事務所のホームページ上で弁護士費用が公開されていることもあり,総額で50万から100万円程度が一つの目安となると考えられます(事案の難易度により変更の可能性があります)。弁護士費用の見積もりについては,依頼を検討している弁護士に問い合わせてみるとよいでしょう。

まとめ

建物明け渡し請求の具体的な方法について解説してきました。家賃滞納者を退去させるためには,場合によっては法的手続を経るなど大きな手間がかかることになります。早期退去を実現するためには,一度専門家へ相談することもご検討下さい。

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