今回は、家賃滞納者を退去させられる場合について解説します。賃貸借契約書のチェックポイントから、要注意な場合を押さえましょう。
目次
家賃滞納で退去させられる場合
家賃の滞納は,賃貸借契約上の債務不履行であり,法律(民法等)上,賃貸借契約の解除ができます。
ただ,賃貸借契約を解除の通知を出したからといって,オーナー自身が直接物件に入り,荷物の撤去や鍵の交換を勝手に行なうことはできません(自力救済の禁止の原則といいます)。賃借人を強制的に退去させるためには,法律に則った手順に従う必要があります。
また、賃貸借契約書がある場合には,退去させる前提として,契約書の内容をしっかりと事前にチェックする必要があり、以下でチェックポイントを解説します。
賃貸借契約書チェックのポイント
契約内容の基本的事項
まずは賃借人の契約上の義務の内容,例えば,家賃の月額,支払方法,支払時期を確認する必要があります。家賃額については,毎月の月額と月に満たない日数の家賃(日割り)の確認を行い,滞納家賃額を計算します。
解除条項
通常の賃貸借契約書には解除条項が設けられており,解除できる場合が列挙されています。家賃の支払義務を怠った場合には,賃貸借契約を解除できるという記載があるのが通常ですので,当該条項に基づいて契約の解除を行うことが可能です。
遅延損害金に関する条項
賃貸借契約書には家賃を滞納した場合に遅延損害金を別途設けることも可能です。遅延損害金に関する条項がある場合、滞納家賃の額に加算をすることになります。
賃料前払特約
原則は当月分の家賃を支払うことになりますが,前月に翌月分の家賃を支払う特約(賃料前払特約)が結ばれるケースが多く,滞納賃料額の計算に影響を及ぼします。
敷金に関する条項
敷金は,滞納家賃が生じた場合に,これとそう再処理することによって滞納分を補填することができます。
無催告解除特約
契約書の解除条項に関連して,家賃の滞納が生じた場合には,事前の催告なくして,直ちに解除できる特約(無催告解除特約)が契約書に設けられることもあります。通常は,賃貸借契約を解除する前提として,事前に相当期間を定め滞納家賃の支払を求めること(催告)が必要となりますが,この特約がある場合には,催告を省略して解除することが可能です。
ただ,この無催告解除特約がある場合でも,直ちに解除が有効となるわけではなく,賃借人との信頼関係が破壊されたといえる特段の事情(背信性)が必要になります。
重要事項説明書
賃貸借契約書に加えて,重要事項説明書の確認も併せて行うと良いでしょう。重要事項説明書は,賃貸借契約に際して重要となる事項を説明する書面で,宅地建物取引業法で作成が義務づけられています。この書面には取引条件(家賃,解除,違約金など)・取引物件などに関する説明事項が記載されており,賃貸借契約書と併せて契約の内容を特定するために重要となります。
賃貸借契約書がない場合
貸借契約書は賃貸借契約の内容を証明する重要な証拠ですが,契約書がない場合や解除できる条項などが不十分であるからといって,法律上,退去を請求できないということはありません。毎月の賃料額と滞納額が分かれば,法律上賃貸借契約の債務不履行として解除が可能となります。
ただ,裁判となった場合に,賃貸借契約の内容,具体的には賃料の具体的な金額と家賃の滞納状況について,契約書以外の証拠で証明することが必要になります。契約書以外に家賃の月額や支払方法に関する合意内容(覚書,念書,メールなどの客観的証拠,証言など)や,滞納家賃の具体的金額(振込による支払であれば通帳の写しなどの客観的証拠)などの立証が必要となりますが,簡易な立証手段である契約書と比較すると,ややハードルが高いところです。
家賃滞納者を退去させる手順
これは建物明け渡し請求を行うことになります。