賃貸借契約書の解除が有効と認められるために必要な「背信性」を徹底解説!

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記事「家賃滞納者を退去させられる場合は?契約解除のポイントを解説」で、家賃滞納がある場合、賃貸借契約書を解除して退去を求めることができると解説しました。この賃貸借契約書の解除が有効と認められるためには、賃借人に不動産オーナーに対する「背信性」があることが要件になり、今回はこの「背信性」について解説します。

背信性(信頼関係破壊の理論)とは?

背信性とは,正確には「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情」をいいます。

賃借人に背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には,賃貸借契約の解除は有効とならず,立ち退きは認められません。

この背信性の要件は,民法などの法律に明確に規定はありませんが,裁判所が求めている要件です。

賃貸借契約は,オーナーと賃借人との間で長期間の居住を前提とする契約ですから,当事者間では信頼関係が要求されます。賃借人は従来賃貸人に比して交渉力等の関係から弱い立場にあるので,これを保護する必要があります。

そこで,裁判所は,賃貸借契約の継続中に,当事者の一方に,その信頼関係を裏切って,賃貸借関係の継続を著しく困難にさせるような不信行為があった場合に限って,賃貸借契約の解除を認めるという考えを採用しました。

背信性が認められる場合とは?

背信性の判断においては,法律で明確な基準があるわけではなく,最終的には裁判所が様々な事情を総合的にみて,当事者間の信頼関係が破壊されているかどうかを判断することになります。

一般的には滞納3ヶ月が基準

裁判例の判断の傾向をみると,考慮すべき要素として,①滞納している家賃の額・期間,②家賃滞納の態様,③賃貸借契約及び滞納に至った事情,④賃借権の存否・範囲等についての争いの有無,⑤賃借人の支払能力・支払意思,⑥賃借人の過去における支払状況,⑦催告の有無及び適否,⑧催告到達後ないし解除の意思表示後の賃借人の対応・態度,といった点を総合的に考慮して,信頼関係の破壊に至ったかどうかを判断されているようです。

これらの要素の中で重要なものは,①の滞納家賃額・期間となります。

裁判所は一般的に,「家賃の不払期間が3ヶ月継続している」場合には,背信性ありとして賃貸借契約の解除が認める傾向にあります。

この点の判断の一例として,東京地方裁判所平成21年7月30日判決を挙げます。この裁判例では,賃借人が2ヶ月分の家賃を滞納していた段階では,背信性がないと判断されましたが,滞納が合計3ヶ月に達した段階で,これまで2度にわたって賃借人が家賃の支払猶予を申し出たにもかかわらず滞納家賃を支払わなかったこと,賃借人が2度に渡って停止条件付解除(家賃の支払がない場合には賃貸借契約を解除するという条件)の意思表示を受けたこと,これを回避するために滞納家賃等を支払う機会を与えられていたにもかかわらず3か月分の滞納に達したと認定をしています。この時点で,賃貸借契約の継続期間,従前の家賃の支払状況,保証金の預託といった事情を考慮しても,この時点で賃貸人と賃借人の間の信頼関係が破壊されていなかったと認めるに足りる証拠はないとして,背信性あり(=賃貸借契約の解除は有効)と野判断をしました。

上記の裁判例では,滞納家賃の期間が合計2ヶ月から3ヶ月になった段階で信頼関係破壊(背信性)ありとの判断をしています。したがって,裁判所では,概ね3ヶ月が一つの背信性判断の目安になっていると評価できるでしょう。

その他の裁判例においても,3ヶ月の家賃の不払がありその後催告があったにもかかわらず支払がないことを理由として解除を認めた裁判例(東京地方裁判所平成27年1月19日判決)があり,概ねの基準として参考になります。

その他の事情を考慮すべき場合もある

上述のとおり,近時の裁判例によれば,家賃不払の期間が概ね3ヶ月に達した場合に,背信性ありとして解除を認められる傾向にあります。しかし,あくまで背信性は総合的に事情を考慮するため,滞納家賃以外の事情を考慮すべき場合もあります。

この点参考になる裁判例として,最高裁昭和39年7月28日判決を挙げます。この事案では,4か月分の家賃の不払がありましたが,①家賃を催告した際の半額に相当する部分(9600円のうちの4800円)が供託(法務局に家賃を預ける手続で,弁済を提供したという法律上の効果があります。)されていたこと,②滞納家賃の金額が少額(3000円程度)であること,③問題となっている賃貸借契約が18年もの長期間にわたり継続していたこと,④賃貸人が家屋を破損した際に修繕要求を受けたにもかかわらず応じなかったため,賃借人において修繕を行いその費用を訴訟時まで請求しなかったことなどを理由に,背信性はない(=解除は認められない)という判断になりました。滞納家賃の金額が少額であったこと,賃借人が相当額の金銭的負担をしたことが背信性否定の大きな事情となります。

また,東京高等裁判所平成19年6月27日判決が参考になります。この裁判例によれば,滞納家賃が1年間に及んだ場合(合計額89万4000円)であっても,その後は賃借人が滞納の解消に努め,短期間のうちに多額の支払を行うことによって,解除の意思表示をしたときまでに滞納状態を家賃1か月分までに満たないまでに改善し,その後滞納を解消した事案においては,賃貸人と賃借人との信頼関係は,これを破壊するには至らない程度に回復したといえるとして,背信性なし(賃貸借契約の解除の効力を否定)としました。滞納が解消されたという,賃借人のその後の交渉態度も重要な事実になり得ます。

背信性が認められる場合のまとめ

以上,裁判例の傾向を見てきました。一般的な基準としては,当該家賃滞納の合計額が賃貸借契約の解除時までに合計3月に達している場合には,背信性ありとして解除が可能です。

しかし,家賃支払の催告を行なった後に未払が解消された場合(家賃の供託がされた場合も含みます),家賃の滞納額が少額にとどまる場合,問題となっている賃貸借契約が相当長期に及んでおりかつその期間内に家賃の滞納がない場合,賃借人が賃貸借契約に際して多額の費用を支出している場合(賃貸人が目的物の修繕を行なわず仮に賃借人が多額の修繕費を支出したり,多額の敷金や保証金を支出している)など,賃借人において信頼関係を維持・回復するような活動がある場合には,背信性は認めらない可能性もあります。したがって,賃借人との交渉経過も検討の上,背信性の判断を見極めて行く必要があります。

無催告解除特約がある場合

家賃の滞納がある場合には,事前の催告(家賃支払を求める)なしに賃貸借契約を解除できる特約(いわゆる無催告解除特約)が設けられていることがあります。無催告解除特約がある場合には,家賃の滞納が発生した場合,催告を省略して直ちに賃貸借契約の解除をすることができそうにも思えます。

しかし,無催告解除特約がある場合でも,裁判所では背信性が必要であるとして,催告を省略して直ちに解除することができません。

無催告での解除が有効となる場合には,①相当長期にわたる継続した家賃不払がある場合,②催告が全く無意味である場合(強固な履行拒絶等),③催告をすることが賃貸人に酷である場合(催告後支払,再度遅延を繰り返すなど)など,無催告解除をしても不合理とはいえない,賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りるような特段の事情がある場合に限られるとされます(最一小判昭和43年11月21日)。

結局は,無催告解除特約がある場合であっても,解除が有効になるためには背信性が必要となります。

背信性の証明方法

賃貸借契約の解除については,後に訴訟などの法的手続に移行した場合に備えて,それを立証するための証拠を確保しておくことも重要となります。

信頼関係を破壊するに足りない特段の事情(背信性)があるかどうかについては,賃借人に立証責任がありますが,オーナー側でも一定の準備をしておく必要があるでしょう。基本的には家賃の滞納が3ヶ月分に達したことが,背信性の目安となりますので,この点の立証手段,賃貸借契約書などの契約の基本的な書類に加えて,家賃振込口座の取引履歴などを準備しておきます。

また,上記のとおり,賃借人との交渉経過も背信性を基礎づけるために重要な事実となり得ます。家賃支払及び解除に関する催告を行なった事実(配達証明付証明郵便)に加え,その後の賃借人とのやりとりについて時系列で詳細にまとめたものを記録化(内容証明,報告書など)しておくことが望ましいです。

訴訟になった場合

書面などの証拠では,背信性の立証に十分ではないと判断される場合には,証人尋問・当事者尋問によって背信性を証明する必要があります。尋問手続は,裁判所に証人・当事者が出廷し,裁判所の前で自己が体験した事実を証言する手続となります。ただ,人の証言は後に変遷することも多い証拠ですから,証言が本当に信用できるものかどうかが厳しく指摘されることとなります。適切な準備が必須となるでしょう。

裁判所が賃借人に背信性ありと判断した場合,賃貸借契約の解除は有効となり,賃借人に物件からの退去を命じる判決が下されることになります。具体的な退去までの手順は別稿にて解説していますので,ご参考ください。

終わりに

以上,賃貸借契約の解除が法律上有効になるための要件として,背信性について検討してきました。基本的には滞納家賃の額と月数が基準となりますが,その他の事情を考慮すべき場合もありますので,解除通知を出しその後の交渉をする段階で一定の見通しを付けておくことが重要です。お困りの場合は,不動産問題に詳しい専門家で相談することをお勧めいたします。

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