弁護士に残業代請求を依頼するメリットとともに、弁護士に依頼した方がいい場合、自分で挑戦した方がいい場合を解説します。また、弁護士に依頼した方がいい場合に、どのように弁護士を探せばよいのか、どのような弁護士がおすすめか、合わせて解説します。
弁護士に依頼するメリット
定時とされている時間外に仕事をした場合、会社に対して残業代を請求できることについては、広く一般に認知されてきているようです。また、インターネットから、残業代を請求するために会社に通知する文書のサンプルに加え、残業代を計算するためのソフトや、残業時間を証拠として残しておくためのアプリなどのツールも簡単に入手できるようになっています。そうすると、残業代請求は弁護士に依頼しなくても、自分でできそうな気もしますが、弁護士費用をかけても依頼するメリットはあるのでしょうか。
会社との交渉や裁判所での手続きのほとんどをアウトソースできる
会社に対して残業代を請求するための手順としては、まず、残業代の根拠となる資料から残業代の金額を計算し、これを請求する文書を会社に対して通知します。残業代の請求権は、支払時期から2年を経過すると時効となってしまいますが、請求から半年は時効が停止しますので、請求をしたことが証拠として残るよう、内容証明郵便で通知するのがセオリーです。
この文書を送った後で、会社と交渉することになります。交渉で解決ができる場合には、示談書等の書面を作成し、これに従って支払いを受けます。
これに対し、会社が交渉に応じない場合や、条件が整わない場合には、労働審判や訴訟といった裁判所での手続が必要となります。これらの手続は専門性が高く、ケースに応じて適切な事実の主張・証拠の提出をするのは至難の業です。
このように、残業代を請求することはやろうと思えば自分でもできますが、上述とおり、手間暇がかかる上、裁判上の手続には高度な専門性が要求されます。
この点、弁護士に依頼した場合には、これらの手続のうち、依頼者本人しかできないことを除けば、基本的には全てを代行してもらうことが期待できます。具体的には、下記手続きは全て任せられますので、その手間暇から解放されることは極めて大きなメリットということができます。
弁護士が代行してくれること
- 内容証明郵便の作成・発送
- 会社やその弁護士との交渉
- 裁判所への出廷や書類の作成・提出
依頼者本人がしなければならないこと
- 残業代の根拠となる資料の提出
- 弁護士からの質問への回答
- 一部の裁判期日への出廷(尋問期日、労働審判の期日等)
会社の誤った主張を退け、正当な残業代を請求できる
残業代請求をした場合、会社が素直に全額支払ってくるケースはほぼありません。法的な理由の有無にかかわらず、何かしらの反論をして支払いに応じないことがほとんどです。残業代請求が活発になっている昨今、会社側もただ手をこまねいているだけでなく、様々な手当をして残業代が発生しないように工夫しているからです。例えば、固定残業代の支払い、管理監督者、みなし労働時間制等です。
このような会社からの反論は、一見正しいように思えますが、法律上認められない主張であることも多く、裁判では退けられることも珍しくありません。しかしながら、それを専門外の方が正しく指摘するのは簡単なことではありません。
そこで、法律のプロである弁護士に任せることで、交渉や裁判所の手続の中で会社が法的に誤った主張をした場合でも、適切に反論して本来請求が認められるべき残業代の支払いを実現することが期待できます。
早期解決が期待できる
残業代請求の裁判は、残業をしたことの証拠となる資料(タイムカード等)がそろっている場合には、労働者側が勝つ見込みが比較的高いといえます。しかも、裁判で負けた場合には、付加金が加算され、未払賃金の支払額が最大で2倍になる可能性があります。そこで、弁護士が代理人として会社に残業代請求をすると、会社としては、交渉で解決を図ろうとする傾向があります。弁護士が代理人となっている場合には、交渉を拒否すると直ちに裁判等の法的手続となるからです。
交渉で解決できる場合には、早ければ請求から2か月程度で残業代が入金となることもあります。これに対し、労働審判では3~4か月前後、訴訟では1年以上かかることも珍しくありません。このように、交渉による解決は、他の手続に比べかなり早い解決となりますが、弁護士がついていると、交渉がまとまる可能性が格段に高くなるといえます。
弁護士に依頼すべき場合、依頼しなくてもよい場合
手数のアウトソースと弁護士費用のバランスが肝心
以上のとおり弁護士に依頼するメリットを解説しましたが、逆に弁護士に頼むデメリットは、弁護士費用がかかるということです。つまり、弁護士に依頼するメリットで説明した各メリットが弁護士費用を払ってでも重視すべき場合には、弁護士に依頼した方がよいことになります。時間と法的知識が十分にある方は、弁護士に頼むメリットも薄くなるため、自分で請求してみることを検討されてみてもよいでしょう。これに対し、仕事が忙しく、裁判等にとても関わっていられない、法律等を調べたりするのが面倒だという方にとっては、メリットが大きくなるため、弁護士への依頼を積極的に考えるべきということになります。
費用倒れとなる場合に注意
ただし、弁護士へ依頼するメリットがどんなに大きくても、支払われる残業代よりも弁護士費用の方が高額になってしまう、つまり費用倒れになる場合には、依頼は避けるべきでしょう。弁護士費用については別稿にて詳しく解説しますが、残業代を回収できたかどうかにかかわらず、依頼時に支払う着手金が発生する契約をする場合には、その分を損してしまうということになります。また、着手金が発生しない、いわゆる完全成功報酬の場合でも、裁判等にかかる実費は依頼者負担となるのが通常なので、その分は損となります。
なお、会社が倒産してしまった場合には、残業代の一部が未払賃金立替払制度という国の事業により支払われる可能性があります。この手続については、会社の破産についての別稿「会社が倒産したら従業員の給料・退職金は支払われないの?」にて詳細に解説していますので、こちらをお読みください。
どのような場合に費用倒れになるの?
費用倒れになる可能性が高い場合としては、まず、会社の事業がうまくいっておらず、ろくに財産がないというケースです。お金がないことを理由に残業代を支払わないケースでは注意が必要です。このようなケースでは、たとえ裁判に勝ったとしても、無い袖は振れないためお金は支払われず、また、強制執行しようにも差し押さえるべき財産が会社にないため、勝訴判決は“絵に描いた餅”になってしまいます。
また、会社にお金があっても、そもそも残業代があまり発生しないケースもあります。具体的には、働いていた期間が短い、残業時間自体が短い、会社の残業代を抑制する手当が適法であるといった事情がある場合です。また、残業していたことの証拠となる資料がほとんどないという場合にも、最終的に裁判で負けてしまう可能性が高いため、このパターンに分類されるでしょう。このような場合にも、会社から支払われる残業代が少額であったり、なかったりするため、費用倒れになりがちです。
費用倒れになる場合は、依頼は慎重に考えよう
このように費用倒れになるおそれが大きい場合には、自分でやってみるか、残念ながらあきらめるか、または、費用倒れを覚悟で弁護士に依頼するか、いずれかの方針を選択することになります。ただし、費用倒れになる公算が大きい案件は、弁護士も受任を避ける傾向があります。完全成功報酬の場合にはタダ働きとなってしまいますし、着手金有りの場合でも、成功報酬がとれないと不採算となることが多いからです。何より、依頼者に損をさせるような仕事は弁護士としてしたくないものだからです。
弁護士の選び方
身近に信頼できる弁護士がいない場合には、インターネットで探すのが最も効率的といえます。残業代請求という労働問題の業務は一般的な弁護士業務と言えるでしょう。そのため、インターネット上には、非常に多くの法律事務所のホームページがありますので、検索エンジンをうまく使って、残業代請求を業務内容としている事務所に絞って探してみるといいでしょう。以下に、弁護士選びのポイントを挙げます。
残業代請求事件の経験・実績
会社からの主張に対する反論や、証拠提出の工夫等、残業代請求事件には専門的な知識・技術が必要になります。そこで、残業代請求事件の経験や実績が豊富な弁護士の方が信頼できるといえるでしょう。ホームぺージにこれらの情報を載せている事務所も多くありますので、比較検討することもできます。ただし、弁護士から掲載料をもらい一部のウェブマーケティング会社の運営するサイトでは、掲載料を多く支払う弁護士ほど優先的に表示される扱いとしているようですので、このようなサイトを利用して弁護士を探す場合には注意が必要です。
実際に会ってみて受けた印象
インターネットでこれは、という弁護士が見つかったら、電話して相談の予約を入れましょう。残業代請求の事件については、無料相談を実施している事務所も多くあります。実際に弁護士に会ってみて、残業代請求の見込みや、弁護士費用、依頼者が協力すべき事項等について聞いてみましょう。その結果、信頼できそうであれば、弁護士費用等の契約内容について更に詳しく確認し、依頼するかどうかを決めることになります。
報酬や費用がサービスに見合うか
弁護士に依頼すべき場合、依頼しなくてもよい場合のとおり、弁護士に残業代請求を依頼するかどうかは、弁護士費用と受けられるサービスのバランスや、残業代の回収可能性によりますので、弁護士費用を中心とした契約内容をしっかりと確認する必要があります。特に、残業代請求事件では、着手金・成功報酬といった一般的な費用に加え、計算の手数料が別にかかったり、交渉→労働審判→訴訟という手続きの段階に応じて報酬の額が変わったりするなど、費用の体系が分かりにくいことがあります。この点は、別稿にて詳しく解説する予定ですので、そちらをご覧下さい。
また、弁護士に相談に行く前に、残業代の計算ソフトを使うなどしておおよその残業代の金額を計算していくと、弁護士費用と回収できた場合の残業代の額を比べられますので、費用倒れのリスクも回避しやすくなります。余裕があれば、事前に計算までは自分でやってみることをお勧めします。
まとめ
残業代請求のための情報やツールはインターネットを通して比較的簡単に集められますが、それらを駆使して実際に会社から残業代を回収するのは決して楽な作業ではありません。費用の問題がクリアできるのであれば、時間や作業の負担を大幅に削減し、請求の手続自体も適切に行われるため、弁護士への依頼を前向きに検討すべきでしょう。本稿を参考に、弁護士に依頼するかどうかを判断し、また、依頼して良かったと思えるような弁護士を探していただければと思います。