中小企業の社長が自分の会社の倒産を決断するということはものすごく勇気がいることです。その決断により自分の会社がなくなるということはもちろん、個人資産の全てを失う可能性もあるからです。
しかし、いったん倒産を決断したからには、なるべく利害関係者に対して損害を与えることのないように、もしくは損害を与えたとしても最小限に留めるように取り計らう必要が社長にはあるのです。
以下では、会社を倒産する社長が最低限やっておかなければいけないことをまとめました。
目次
会社を倒産する社長は絶対に夜逃げしないこと
倒産する会社の社長として、最低限やっておかなければならないことはたくさんありますが、その中でも大切なことは「逃げない」ということです。
倒産の事実が世間に広まると、債権者の中には必死になって社長の行方を追う人が出てきます。その人たちから一時的に逃れるために、どこかに姿をくらましてしまう社長もいます。いわゆる「夜逃げ」です。
しかし、夜逃げは最悪の選択です。なぜなら、社長が行方をくらまして、会社には事情を何も知らない社員だけが残され、債権者からの執拗な催促の矢面に立たなければならないことになるからです。また、社長が会社の債務を連帯保証している場合、その債務は時効にならない限り一生社長について回ることになりますので、夜逃げをしても事態が好転することはありません。他方、弁護士に破産申立てを依頼すれば、それ以降、弁護士が代理人になるため、社長への取り立ては止まります。すなわち、夜逃げをする必要はなく、してもいいことは何もないのです。
可能な限り早く弁護士に会社の倒産について相談すること
社長は倒産の専門家ではありませんし、会社の倒産を何度も経験している社長などいないでしょう。しかし、会社の倒産について、適切なタイミングで、適切な手段を選択するには専門的な知識が必要です。
この点、専門家である弁護士の中には、会社の倒産案件を多く取り扱っている人がいて、毎月たくさんの倒産案件を処理しています。社長自ら会社の倒産処理を全てこなすことはありえませんので、このような経験豊富な弁護士に早期に相談しに行くことが社長には求められるのです。
弁護士の立場から見ると、中小企業の倒産の場合にはともかく相談に来るのが遅い傾向にあります。社長が民事再生を希望してくるときには、すでにその時期を逸しており、もはや破産処理をするしかない状況であることが多く、破産の相談をしに来るときには、会社のみならず、社長個人としても相当な債務を抱え込んで、家族・親族・友人関係まで悲惨な状況に巻き込んでいるという状況も少なくありません。
「弁護士」と聞くと敷居が高く感じ、また、一般的に関わることのない職種のため、気軽に相談しに行くのが難しく感じるかもしれません。ただし、多くの弁護士が無料相談を行っていますので、現状の確認も含めて早期に一度相談にいくことも社長の立派な責任であることを忘れないでください。
社長が会社の倒産処理に主体的に関わること
破産や民事再生手続きでは、代理人となる弁護士が社長に代わって処理を進めていくことになります。しかし、倒産処理を任された弁護士が、会社の細やかな部分、社員や取引先の考えなど、詳細な事情までは知る由もありません。そのため、できるだけ社長が弁護士と連携して、倒産処理がうまく進むように協力できることはしていくべきです。
銀行との折衝
中小企業の倒産手続きの中でも、破産のような清算型ではなく、民事再生手続きなど、会社の存続を目的とする再建型の手続きにとって最も重要なことは、銀行との折衝です。なぜなら、最も大きな債権額を持っているのが銀行であることが多いからです。そして、この銀行をなんとか説得できれば、再建型の手続きは比較的スムーズに進むことが多いのです。そのため、社長が手続きを依頼した弁護士と協力し、銀行と話し合って手続きを進めていくことが基本になります。
しかし、再建型とはいえ倒産処理をするわけですから、銀行との利害は対立することになります。前提として、銀行にある程度の損害を与えることになる可能性が高いので、社長が銀行にお願いするという立場になります。
一番大切なのは不正がないこと
例えば、倒産前に粉飾決算を繰り返し、現実の会社の状況と明らかに異なるような財務諸表を作成した場合などはどうなるでしょうか?
銀行は、会社が作成した財務諸表に基づいて融資の判断をするわけですから、騙されてお金を貸し出してしまったことになります。そのような銀行が黙って再建型手続きの処理に従うわけにはいかないかもしれません。銀行の担当者は社長を信じて資金を提供したのに、裏切られた結果となり、粉飾決算の部分について執拗に説明を求める可能性はあります。そのため、会社の状況が苦しいからといって粉飾決算をすることは絶対にやめましょう。
決算書に粉飾が行われている場合は?
粉飾決算がないことが一番大切なのですが、実際には粉飾が行われていることがあります。粉飾が行われている場合、事前に弁護士に粉飾決算が行われた説明と、実態の調査報告書を添付して再建型手続きを行うことによって、スムーズに進めていくこともあります。
担保が設定されている場合の対応
中小企業向けの融資においては、銀行からの借り入れを行う際、担保を差し入れているケースも多いと思います。この場合、担保権者は銀行ということになり、倒産の事実が明らかになると、銀行は担保権を行使して債権の回収を図ろうとします。
ただし、担保権を行使して物件を競売にかけると、一般的な市場価格より低い金額で落札される可能性が高いことから、実際には銀行と管財人が話し合って、任意売却によってできるだけ多くの金額を確保することになります。それでも一部回収できない債権がある場合、回収できなかった部分は通常の一般債権に分類され、各手続きの方法に従って処理されることになります。
信用保証協会の保証付き融資がある場合の対応
中小企業においては信用力が足りない、十分な担保がないなどの理由から、銀行から必要十分な資金を借りられるとは限りません。そのため、地域の信用保証協会が低額の保証料で保証を与え、銀行から借りられるようにする信用保証という制度があります。この制度を利用すると、会社が倒産した場合には、信用保証協会が会社の債務を肩代わりして弁済しますが、保証協会は、その分を求償権として会社に請求することになります。そのため、会社としては、銀行に対する債務がなくなる代わりに、保証協会に対する債務が残ることになるのです。
この求償債務については、会社が倒産した後には社長個人が背負うケースが多く、求償債務の取り扱いについて社長個人が保証協会と話し合いをすることになります。
従業員への対応
会社を倒産すると決めたら真っ先に頭に思い浮かぶのが従業員の顛末です。会社を倒産するにあたって、最も苦労するのは社長であるのは間違いありませんが、解雇される従業員にもそれぞれの生活があります。解雇する従業員のことをどこまで気にかけることができるのか、社長の誠意が問われる局面です。
以下では、社長が会社を倒産させるにあたって、従業員への対応のポイントを挙げます。
- 社長は絶対に逃げず、最後の1人になるまで質問には答え、説明責任を果たすこと
社長の説明責任として、今後の手続きについて質問されるのが通常ですから、代理人となる弁護士に同行を求めるなどするとよいでしょう。
- 業種によっては、社長自ら取引先などを回り、従業員の引き受けが可能か交渉すること
- 未払い給料や退職金に当てる財源を1円でも多く確保するため、破産管財人の業務に協力すること
従業員への給料・退職金の支払いについては、未払賃金立替制度の活用など、可能な限り対策を計りましょう。下記の記事に詳細を解説していますので併せてご確認ください。
- 雇用保険や社会保険の手続き等、労務関係の手続きを可能な限り済ませること
取引先への対応
会社を倒産させるにあたって、取引先へ迷惑をかけることは避けられません。倒産の前後において取引先への対応を誤ると、その迷惑がさらに拡大してしまうことになります。
以下では、社長が会社を倒産させるにあたって、取引先への対応について注意すべきポイントを挙げます。
- 迷惑を掛けるからといって、特定の取引先にだけ債務を返済することはしない
- 倒産の方針を固めた後は、可能な限り仕入は現金決済とし、買掛金を増やさないようにする
- 倒産の方針は絶対に秘密にする
下記にそれぞれの理由を解説します。
特定の取引先にだけ債務を返済してはいけない理由
会社の倒産を検討している段階において、特定の取引先にだけ債務を返済することはやってはいけません。全ての債権者は平等に扱わなければならず、一部の取引先にだけ優先して弁済した場合、破産管財人によって弁済を取り消されることになります。さらに、社長個人の債務の免責が受けられなくなる可能性もあるので、絶対にやってはいけません。なお、こっそり懇意にしている取引先にだけ債務を返済したとしても、破産申立ての段階で、少なくとも直近2年間の通帳コピーの提出が求められ、必ずばれます。
仕入れは現金とし、買掛金を増やすべきではない理由
倒産の直前に買掛により仕入れることは、債権者にとっては取り込み詐欺だと非難される原因となる上、悪質な場合には犯罪にもなりますので、厳に慎まなくてはなりません。
倒産の方針を秘密にする理由
スムーズな倒産手続きのために、取り付け騒ぎなどの混乱を回避するのは必須です。取引先に黙って倒産手続きに入ることは不義理とも思われますが、会社の倒産の噂は、想像以上にずっと早く広がってしまうものです。②のように、仕入代金の支払方法を変更するような場合など、取引先への説明が苦しいこともありますが、具体的な対応については弁護士と相談し、秘密が保たれるよう十分気をつけましょう。
まとめ
以上のとおり、会社の倒産手続きまでに社長が対応しなければならないことは多岐にわたり、慎重な対応が求められる事項も多くあります。夜逃げなどをすることなく、きちんとした手続きにより会社を整理し、自身の人生の再出発をするためにも、まずは弁護士に相談し、今後の対応のサポートを受けるようにしましょう。