会社を破産させるためには、費用がかかりますので、会社に残っている現預金が全くなくなってしまった後では、破産の手続をとることすらできなくなってしまいます。そのため、資金繰りが苦しい中でも、破産申立てに必要な費用は確保しておく必要があります。
では、どれくらいの現預金をとっておけば、破産申立てをするのに足りるのでしょうか。以下、会社の破産申立ての経験が豊富な弁護士の視点から、会社破産にかかる費用の種類や見積もりについて詳しく解説します。
目次
会社の破産にかかる3つの費用
会社の破産にかかる費用は、大きく次の3つに分類されます。
- 弁護士費用
- 裁判等の実費
- 管財予納金
弁護士費用
弁護士費用は会社の破産申立代理人として、破産申立ての準備から、申立後の対応まで、会社の破産手続の一切の代理を依頼する弁護士に支払う報酬です。
裁判等の実費
裁判等の実費は、破産申立時に必要な印紙代など、弁護士の報酬に属しない一切の費用です。
管財予納金
管財予納金は、破産管財人の報酬や、管財業務の遂行に必要な金額として、破産申立時に納める費用です。
破産申立てに必要な費用として、弁護士費用を気にされる経営者の方が多いですが、3つの合計が破産に必要な費用となるため、注意が必要です。以下、3つの費用について、どのように決められるのかなど、詳しく解説します。
弁護士費用の決まり方
弁護士費用は、平成16年に日弁連報酬等基準が廃止されたことにより自由化されています。廃止前の基準としては、会社の破産申立ての弁護士報酬は50万円以上とされていました。現在は、これよりも低額な金額を設定している事務所も少なくありません。
会社破産の弁護士費用は、上記のように自由化されていますが、会社の状況から想定される業務量に応じて決定されるのが通常です。具体的には、次のような事情が考慮されるものと思われます。
営業拠点の明渡しの要否
事務所や店舗、工場等の明渡しが必要であることは、弁護士費用増額の要因となるのが通常です。具体的な金額についてはケースバイケースですが、要明渡物件の規模や所在地、敷金・保証金の額等の事情が考慮要素となります。
財産保全の要否
商品、原材料、自動車や工作機械等、破産申立てに伴う混乱により散逸してしまうおそれがあるものについては、可能な限り保全する必要があります。財産保全が必要であることは、弁護士費用増の要因となるのが通常です。具体的な金額については、保全すべき財産の内容や、保全の難易度等の事情が考慮要素となります。
仕掛業務の有無
仕掛中の工事や、継続的にサービスを提供する契約が存続している場合等、仕掛業務があることは、弁護士費用増額の要因となるのが通常です。具体的な金額については、仕掛業務の質・量や、完了までに必要となるコスト等の事情が考慮要素となります。
従業員への対応の要否
雇用中の従業員がいて、賃金・退職金が未払いとなってしまうことや、雇用保険等の手続の対応が必要となることは、弁護士費用増額の要因となるのが通常です。対応が必要な従業員の数が多いほど、費用も多くかかる傾向があります。
債権者の数及び内容
債権者数が多いこと(おおよそ100名を超える場合)や、クレーム対応が必要な債権者がいることは、弁護士費用増額の要因となります。
破産申立てまでの緊急性
資金ショートによる混乱や、税務署等からの差押えが間近に迫っている場合等、依頼から破産申立てまでの準備期間が短くなることは、弁護士費用増額の要因となるのが通常です。
その他、特に管財人への説明が必要な事柄の有無
直前に偏波弁済をしていた場合や、破産に至った経緯が一般的なものでない場合等、特に管財人への説明が必要となることは、弁護士費用増額の要因となるのが通常です。
弁護士費用の具体的な金額は?
弁護士費用の具体的な金額としては、会社の状況によりけりで一概に相場といったものはないと思われますが、既に廃業し、営業拠点も明渡済み、従業員も解雇済みで、登記情報のみ残っているようなケースでは、20万円前後としている事務所も少なくありません。これに対し、営業中の会社については、上記の要因の多くに当てはまるため、100万円を超えることも珍しくありません。
裁判等の実費の決まり方
破産手続開始の申立てをする際に必要な印紙代、郵券代及び官報広告費といった手続関連の費用や、交通費、事務費等、弁護士費用に属しない一切の費用です。
通常の会社の破産手続であれば、5万円を上回るケースはそれほど多くありませんが、債権者数が多いケースでは郵券代が多くかかります。
また、明渡拠点等の現場や、手続を行う裁判所が遠方にある場合には、交通費が高額になりますので、その分の費用の予納を求められることもあります。
管財予納金の決まり方
東京地方裁判所の運用では、弁護士を代理人として破産申立てをする場合の予納金の最低金額は20万円とされています。ただし、これは最低の基準で、他に管財人の業務が必要となるケースでは、その分予納金として求められる金額も大きくなるのが通常です。
具体的な金額を算定する基準等はありませんが、営業中の会社であれば、管財人の業務も多くなるため、予納金が大きくなる傾向があります。弁護士費用の解説で増額となる要因を挙げましたが、これは管財予納金にも当てはまります。ただし、回収できることが確実な売掛金等、換価が容易な資産がある場合には、予納金の金額自体は比較的定額に抑えられることもあります。
会社破産の申し立て費用確保のポイント
以上のとおり、会社の破産申立費用として、弁護士費用、裁判等の実費及び管財予納金が必要となりますが、特に営業中の会社の破産申立費用は、経営者の方の想定よりも高額となるケースが多く、会社に残されている現預金では不足してしまうということも珍しくありません。そのような場合には、経営者の方の財産(99万円以下の現金等、破産後も保持できる自由財産)や親族の方の援助により補てんしなければならないことになります。
経営者の方の個人としての経済的再生のためには、可能な限り会社に残された財産を破産申立費用に充てたいところです。そこで、売掛金の入金直後等、会社の現預金が最大となるタイミングで破産申立てを行うのがセオリーといえます。そうすると、完全に資金がショートした後では、破産申立てまでの間に、支払いが必要な債権者への対応をしなければならないことになり、混乱が生じるおそれがあります。特に、租税等の滞納がある場合には、得意先への通知により売掛金が差し押さえられてしまうというリスクもあり、最悪の場合には費用が確保できず、申立てを断念せざるを得なくなってしまいます。
このような事態を避けるためにも、資金繰りに余裕があるうちに、弁護士に相談することが重要です。