相続財産の分け方をめぐって,他の相続人と意見が対立してしまったり、そもそも話合い自体できなかったりして解決の見込みがない場合には,裁判所が関与する手続きをとるしかありません。この場合の手続きは遺産分割調停といいますが、裁判所で進める手続きということもあって、敷居が高く何から手を着ければいいのか分からないという方も少なくないでしょう。そこで、以下、調停に必要な準備、手続きの流れ、利用上の注意点等、遺産分割の問題を調停で解決するために知っておきたいポイントを解説します。
目次
遺産分割調停とは?
調停は,裁判のように裁判所が強制的に解決のための判断を下すものではなく,当事者間での話合いにより合意を目指す手続きです。そうすると、他の相続人が話し合いに応じない場合には、調停を行っても無駄になるとも思われます。
しかし、調停では,主に裁判所の調停委員が当事者の間に入り、双方の言い分を聞きながら意見が対立しているポイントを整理し,調整しますので、当事者のみでは到底話合いができないような事件でも、解決に至るケースが少なくありません。また、法律上も遺産分割の事案では、裁判所が関与する手続きとしては、まず調停を行わなければならないとされています。
したがって、当事者で遺産分割協議がまとまらないケースでは次の手段として調停を申し立てることになります。
遺産分割調停を申し立てる前に調査すべき事項
相続人の範囲
相続人の一部が漏れていると、調停は無効になってしまいます。そこで、戸籍類により、相続人の範囲を調査し、当事者に漏れがないようにする必要があります。特に、孫の代の相続人がいるケースでは、相続関係が複雑になりがちですので、注意が必要です。
遺産としてどのようなものがあるか
不動産や、預貯金、有価証券等、どのような遺産がどれくらいあるかを調べ、目録を作成します。ただし、被相続人と同居していた他の相続人が遺産を隠してしまっているようなケースでは、遺産の全体像を把握するのは困難です。このような場合には、他に明らかとなっていない財産がある旨を申立書類に記載し、裁判所を通して、相手方に開示させるようにします。
遺産分割調停に必要な書類
調停申立に必要な書類は次のとおりです。
申立書類関係
申立書、事情説明書等を作成する必要があります。様式については申立てを行う裁判所に確認し、それに従います。東京家庭裁判所に申立てをする場合には、書式をウェブサイトからダウンロードすることができます。
戸籍関係
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍の除籍謄本・改正原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍の附票又は住民票
いずれも発行後3か月以内の原本が必要となります。
遺産関係
不動産がある場合
- 不動産の登記簿謄本または全部時効証明書(発行後3か月以内のもの)
- 固定資産評価証明書
いずれも原本が必要です。
預貯金がある場合
株式等がある場合
その他証拠関係
申立ての際には写しを提出し、調停の期日に原本を持参します。
遺産分割調停の申し立てと管轄
申立書に収入印紙を貼り、予納郵券を添えて、他の必要書類とともに裁判所の窓口に提出します。
調停の管轄(どの家庭裁判所に行くか)
調停は相手方の住所値を管轄する家庭裁判所に申し立てます。ただし、事前に合意することにより申立てを行う裁判所を決めることもできます。
裁判所が遠方にある場合には、郵送して提出することもできます。
申立後の流れ
調停期日のイメージ
調停の期日では、対立する当事者が交互に調停委員に言い分を主張します。一方が調停委員と話をしている間は、他方の当事者は待合室で待機します。当事者間に感情的な対立がある場合にも、相手方は別の部屋にいますので、途中で遮られたりすることなく調停委員に言い分を説明することができます。一通り説明が終わると、他方の当事者と交代します。これを何度か繰り返し、問題点の整理や調整が行われます。期日の最後には、次回期日の調整と、次回期日までに当事者が準備すべき事項が指示されます。
このような期日が重ねられ、当事者双方が納得できる調停案がまとまると、裁判官が同席して、調停が成立します。
これに対し、話合いを続けても合意に至るのは難しいと裁判所が判断した場合には、調停は不成立となり、審判の手続きに移行します。
話し合う内容の順番
遺産分割調停のケースでは、次の順番で話合いが行われます。
- 相続人の範囲
- 遺産の範囲
- 遺産の評価
- 各相続人の取得額
- 遺産分割の方法
上記3.遺産の評価では、不動産等の価値をいくらとみるのかについて検討します。路線価や不動産業者の査定を参考に合意により評価額を決めることになりますが、合意ができない場合には、裁判所が鑑定人を選任し、鑑定により評価額を決めることになります。その場合の鑑定費用は当事者の負担となりますが、100万円を超える金額になることも少なくありません。
上記4.の各相続人の取得額では、生前贈与を受けていたとか、療養看護に努めたといった事情から、相続分を修正する必要があるかどうかを検討します。いわゆる特別受益や寄与分が問題となります。
上記5.の遺産分割の方法では、誰がどの遺産を取得するのかについて、相続分を上回る評価額不動産を単独で取得した当事者が、他の相続人に対して代償金を支払う等、具体的な方法が話し合われます。
調停における注意点
相手方は誰になるか。代襲相続時は特に注意
調停を始めるために必要な準備の項でも述べましたが、遺産分割調停は、相続人全員が当事者となります。対立している相続人だけが相手方となるわけではありません。そこで、誰を相手方とするかについては、戸籍類を検討して漏れがないようにする必要があります。特に、相続人が死亡して、その子や孫が相続人となる代襲相続のケースでは、当事者が増え、相続関係が複雑になりますので注意が必要です。
他にも遺産があると疑われる場合
遺産分割調停でよく問題となる点として、遺産となるはずの現金や預貯金が使い込まれている等、使途不明金の問題があります。また、他の相続人が貴金属を持ち去ってしまった等、他にも遺産となるはずの財産があるはずだという主張がされることもあります。
このような問題は、前記3.申立後、調停はどのように進むかの項の中で、話し合う内容の順番②遺産の範囲の問題として扱われます。調停の中では、どのようなものが遺産になるかという点も合意で決定しますが、合意ができない場合には、調停の手続内で審理をすることはせず、別途訴訟の手続き(遺産確認訴訟)が必要となります。この訴訟の中では、他に遺産となるものがあると主張する当事者がその証拠を提出しなければなりません。そのため、他に遺産があることの証拠が乏しい場合には、時間的・経済的コストを考えると、遺産確認訴訟はせず、調停の中で遺産の範囲について合意をしておくのが無難といえるでしょう。
まとめ
以上のとおり、遺産分割調停を申し立てるために必要な準備や、申立後の手続きの流れについて解説しましたが、調停の手続きを利用して解決をするのは、必要書類の準備や、平日の日中に開かれる調停期日への出席、次回期日に向けた準備等、時間や労力の面で決して負担が小さくありません。また、事案によっては高度な専門知識が必要となることもあり、裁判所から、弁護士を代理人にするよう勧められることもしばしばあるようです。
この点、弁護士を代理人とすると、上記のように書類等の準備をしたり、期日に出席したりすることは、全て弁護士に任せることができ、争点への対応についても、より適切にしてもらえることが期待できます。
そこで、上記のような負担と、弁護士費用のバランスを考え、弁護士に依頼すべきかどうか検討してみることをおすすめします。